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資料番号 № 0009

ループ

ブリーカー・ストリートで、ルイス・アロヨは編成の真ん中の車掌室から身を乗り出し、どの駅でもそうするようにホームの人数を数える。唇を動かしながら、頭をひとつずつ。九人、そのうち二人は走っていて、一人は自転車を押しているが、こんな時間にそれをとがめる者はいない。夜の十一時四十分、十月二十七日の火曜日で、ダウンタウン方面の6系統はほとんど空だ。彼の車両にいるのは、ヘッドホンをした女子学生と、オレンジ色の作業ベストの男と、灰色のハンチングをかぶった老人だけだ。老人は四十二丁目から乗ってきて、それからずっと窓の外のトンネルの黒い壁を見つめている。あまり熱心なので、ルイスも二度ほどつられてそちらを見た。彼はパネルの鍵でドアを閉め、ドアの上のランプがすべて消えるのを待ち、よし、もういい、と小声で自分に言う。そうしてはじめて、先頭の運転室のデュエインが電車を出す。一年目にそう教わり、笑われても今もそうしている。

三月以来、6系統に戻ってはじめての週だ。三月、三十三丁目駅で、青いジャンパーの男が、電車がもう駅に入ってきているときにホームの端から足を踏み出した。ルイスはいまと同じ場所で腰まで身を乗り出していて、男の顔を一秒か、それより短いあいだ見た。そのあと無線で、当時はまだ別の班の見知らぬ運転士だったデュエインが運行指令に「12-9」、つまり人が電車の下に入ったと告げるのを聞いた。その声があまりに平らだったので、ルイスは三か月のあいだ彼を憎んだ。三か月、彼は車両基地で軽作業につき、伝票を数え、ゴムの木の鉢がある部屋の女性のもとに通っては、よく眠れていますと話した。それから乗務に戻りたいと願い出て、組まされたのがそのデュエイン・マシスだった。会ってみると落ち着いた男で、折り返しの待ち時間には運転室でデイリーニューズのクロスワードを解いていた。初めて顔を合わせたときは、黙って握手をした。

ブルックリン・ブリッジでルイスはドアを開け、毎晩読み上げる文句をマイクに向かって読む。この電車のダウンタウン方面の最終停車駅です。この電車の次の停車駅は、アップタウン方面ホームのブルックリン・ブリッジです。皆さま車内からお降りください。それから通路に出て、自分の車両を見回る。女子学生はヘッドホンを外さずに降り、オレンジのベストはあくびをしながら降りていく。ハンチングの老人は彼を見上げて、このまま乗っていてもいいかと尋ねる。

乗っていていいことは、ルイスも知っている。規則にそう書いてあるし、年に一度は新聞にも載る。週に一度はカメラを持った観光客が車内に残って、窓からシティ・ホール駅を見ようとする。駅が閉鎖されたのは一九四五年の大晦日だった。新しい長い編成がカーブしたホームに収まりきらず、カーブを延ばすことはできなかったからだ。それでもだめだと言う車掌は多く、観光客を乗せるとあとで電車一本ぶんより手がかかるからだという。ルイス自身も最初の何年かはそう言っていた。ある晩、十歳くらいの女の子と父親を乗せたままループ線を回り、その子がガラスに額を押しつけて息をするのも忘れるのを見るまでは。ルイスは老人を見る。ハンチングと、毛糸の手袋をはめて膝の上にきちんと重ねた両手を見て、だめだと言いたくなる。ループ線では空の車両がほしい、それだけだ。自分が責任を負う人間がひとりもいない二分間がほしい。

「始まった場所を見たいんですよ」と老人は言う。「今日でちょうど百二十二年です。夕方の七時に開業して、その晩だけで十五万人が乗った。一回五セントでね。最初の晩、何時に終わったかご存じですか」

ルイスは知らないと答える。老人は満足そうにうなずき、毎年調べようと思うのだが、知っている人に聞くのを毎年忘れるのだと言う。ルイスは、ループ線では座っていてください、立たないで、ドアに近づかないで、と説明しはじめる。老人はもう窓のほうを向いていて、自分の問いの答えを待っている様子もない。ルイスはドアを閉める。ドアの上のランプが消え、パネル全体が均一な緑に灯り、デュエインが電車を出す。

電車はカーブに入る。ここではいつも車輪が悲鳴をあげ、ルイスはその音を千回は聞いてきた。急な曲線で鉄と鉄がこすれる甲高い音で、新人は歯が浮くと顔をしかめ、観光客は笑ってスマートフォンで撮る。今夜は悲鳴がない。電車はループ線をゆっくりと静かに進む。その静けさのなかで、隣の車両の床を空のソーダ缶が壁から壁へ転がり、金属にこつんと当たる音が聞こえる。ルイスは通路に立って手すりにつかまり、最近レールに油を差したのかもしれないと考える。あるいは三月から、耳がどうかしているのかもしれない。ゴムの木の部屋の女性も、そういうことがあると言っていた。

電車は赤信号で止まる。

ループ線で電車が止まることはない。それもルイスは知っている。電車は駅を徐行で通り抜け、観光客はいくつかの明かりと緑のタイルと天井のアーチを、ちらりと目にするだけだ。いま車両はホームのちょうど真横に止まっていて、ホームはゆるやかな弧を描いて窓に沿って延びている。車内の明かりのなかに、杉綾模様にタイルを張ったヴォールト天井と、暗い採光窓が見える。電球のない真鍮のシャンデリアと、陶製の枠に入った駅名の表示も。隣の車両の缶は壁まで転がって、そこで止まっている。

彼はデュエインを呼ぼうと運転室へ向かい、その途中で、自分の車両のドアが開く音を聞く。閉鎖されたホーム側のドアがいっせいに開く。どの駅でも彼の鍵で開くときと同じ、空気の抜ける音を立てて。冷たく乾いた空気が車内に入ってきて、古い埃と石膏の匂いがする。ルイスはパネルを見る。ランプはすべて均一に灯っていて、どれも緑で、どれもドアは閉まっていると告げている。彼は鍵を差して閉の側へ回し、もう一度、もっと強く、いっぱいまで回すが、何も起こらない。パネルは鍵を受け入れたまま黙っていて、ドアは開いたままで、その向こうのホームは暗い。

老人が立ち上がる。ハンチングをかぶり直し、右の手袋を外してポケットにしまい、自分の駅に着いた人の落ち着きで、開いたドアへ歩いていく。車両とカーブしたホームのあいだには手のひらほどの隙間があり、老人は足もとを見ながらそれをまたいで、ホームに降りる。そこで何歩か進み、シャンデリアの下で立ち止まる。顔はヴォールトに向け、背中は電車に向けたままだ。

「お客さん」とルイスは言うが、声が細く上ずる。「お客さん、車内に戻ってください。お客さん」

老人は振り向かない。シャンデリアの下に立ったまま、天井で暗く沈んでいるガラス窓を見上げている。かつて上の広場から光が落ちてきた窓だ。老人が素手の右手を上げ、指先でゆっくりと宙をなぞるのを、ルイスは見る。ルイスには見えない何か、タイルか、誰かの肩を。

ルイスは運行指令を呼ぶ。6系統の電車がループ線のシティ・ホールのホームに停車中、指令なしでドアが開いた、乗客が閉鎖ホームに降りた、と伝える。そして、次の電車をループ線に入れないでくれと頼む。無線が雑音を立て、それから指令員が答える。疲れたブロンクスなまりの女性で、こちらではループ線は空いている、ループ線には誰もいないと言い、列車番号を尋ねる。ルイスは番号を告げる。女性は黙りこみ、それから言う。表示盤にその列車はない。最後の6系統は四分前にループ線を抜けて、もうアップタウン方面のブルックリン・ブリッジに着いている。次の電車は三分後にループ線に入れる。

先頭の運転室のデュエインも指令を呼び、ルイスには彼の平らな声が聞こえ、女性はデュエインにも同じことを答える。うしろのどこか、カーブの向こうのブルックリン・ブリッジで、次の電車が車輪をきしませてホームに入ってくる。

ルイスは開いたドアのそばで頭上の手すりにつかまり、シャンデリアの下の老人と、均一な緑のランプを見ている。頭のなかで、すべてが一度につながる。電車は悲鳴をあげなかった、指令には見えていない、ドアは開いている。なぜか、母親に電話しなければと思う。母は十分前に電話をかけてきて、アスター・プレイスのあたりで胸ポケットの電話が震えたが、彼は出なかった。勤務中には決して出ないのだが、それでも母は毎晩かけてきて、息子が生きているかを確かめる。

足もとの床が沈む。なめらかに、一センチ。グランド・セントラルのラッシュアワーに、群衆がいっせいに乗りこんでばねが重みを受けとめるときの、あの沈み方だ。その感覚を、ルイスは自分の家の階段よりもよく足の裏で知っている。それからもう一センチ。頭上の手すりが手のひらから少し離れ、腕を上げなければならなくなる。車内には相変わらず誰もおらず、黄色い座席は空で、窓ガラスには制服の上着を着た自分が映っているだけだ。床がまた沈み、ルイスは肩に空気を感じる。温かく濃い、近すぎるところに立つ人たちの空気だ。車両に誰かが乗りこんでいた。大勢で、みな黙っていた。

デュエインが無線で、乗客は見えているかと尋ねる。ルイスは、見えている、乗客はホームにいる、一人だ、と答える。「一人」という言葉がなかなか出てこなくて、彼はそれを二度繰り返す。

彼は振り向かずに立ったまま数える。数える頭はないので、床の沈みを数える。一センチ、もう一センチと、唇がひとりでに動く。十七年、そうやってホームを数えてきたからだ。あとで思い出せなくなるどこかの数で、床は沈むのをやめる。

前方の信号が黄色に変わる。

デュエインが無線で「了解、黄色」と言い、それから規定の言い回しをやめて、小声で言う。「ルイス、止まってるのか、出すのか。ここからじゃ見えない。あんたの乗客だろう」

老人はホームの、ドアから三歩のところに立っている。ハンチングの下のうなじと、短く刈った白髪がルイスに見え、老人がもう片方の手袋も外して、両方を片手に持っているのも見える。降りることはできる。三歩行って肘をつかみ、三歩戻ればいい。けれど車掌は路線の途中で電車を降りたりはしないし、閉鎖された駅ならなおさらだ。うしろから電車が来ていて、こちらが見えない指令が一分後にはそれをループ線に入れようとしているなら、なおのことだ。それに床は低く沈んだまま重く、ドアとのあいだに何人が立っているのか、通り抜けられるのかどうかも、ルイスにはわからない。

三月には、選びようがなかった。彼は持ち場に立っていた。そのあとひと月、選びようはなかった、君には何もできなかったと、何度も説明された。

彼は鍵を回す。

いつもの空気の音とともにドアが閉まり、老人を、ホームを、ヴォールトを断ち切る。パネルのランプは一分前と同じ均一な緑に灯りつづけている。ルイスは無線に「出してくれ」と言う。

電車は重たげに動き出し、ルイスは脚でそれを感じる。朝八時の満員の電車が、こんなふうに力をこめて、一秒余計にその場にとどまってから動き出す。ガラスの向こうの老人は振り向かないまま小さくなり、頭上のシャンデリアが後ろへ去り、カーブしたホームが去り、トンネルが始まる。電車は入ったときと同じ静けさでループ線を出る。ブルックリン・ブリッジの手前のポイントで一度だけ短く車輪がきしみ、ルイスは全身でびくりとする。

アップタウン方面のブルックリン・ブリッジのホームでは、三十人ほどが待っている。彼がドアを開けると、車両がばねの上でゆっくりと持ち上がる。一センチ、もう一センチ、さらにもう一センチ上がって、頭上の手すりが手のひらに降りてくる。開いたドアから降りる者はいない。ホームの人々が乗りこんで座り、誰かが六分遅れだと文句を言い、ルイスはマイクでペラム・ベイ・パークまでの駅名を読み上げる。声は平らで、三月のデュエインと同じくらい平らだ。キャナル・ストリートで彼は車掌室から身を乗り出し、唇を動かして頭を数えると、数は目に見えるものと合う。スプリング・ストリートでも合い、ブリーカーでも合う。ユニオン・スクエアに着くころには、合っているかどうか確かめるのをやめて、ただ数えている。

老人は電車にもホームにもいない。指令は、列車がまた表示盤に出ている、異常なし、と言う。あとに続いた6系統もループ線を問題なく通過し、シティ・ホールのホームには誰も見なかったが、あそこは暗くてよく見えない、とも言う。隣の車両の缶がまた、壁から壁へ転がっている。

車両基地で電車を引き渡すとき、デュエインは長いこと上着をいじってから、いくつだった、と聞く。ルイスは、何がいくつだと聞き返す。デュエインは、無線で聞こえていたと言う。ルイスはボタンを押したまま、黄色になるまでずっとスペイン語で声に出して数えていた。デュエイン自身は、四十で数がわからなくなったという。ルイスは覚えていないと言い、それは本当で、覚えているのはひとりでに動いていた唇だけだ。

翌朝、ルイスはループ線での遅延の報告書を書く。ドアの故障、指令なしでドアが開いた、表示がドアの状態と一致しなかった。降車または負傷した乗客の欄の上で、彼は長いあいだペンを止めたまま、何も書かない。その週も、その後も、ニューヨークで灰色のハンチングの老人の失踪届を出す者はいない。彼は毎日、車両基地の休憩室で報告をめくって確かめ、隣ではデュエインがクロスワードの升目を埋めながら、何も聞かない。

二晩後、電車はまたループ線を回り、いつものとおり車輪が悲鳴をあげ、徐行する窓の外をヴォールトとタイルとシャンデリアが流れていく。今度はルイスは観光客を一人乗せたままにしていて、その男はループ線のあいだずっと、スマートフォンのライトで窓の外を照らしている。ホームには誰もいない。観光客はがっかりした、もっときれいだと思っていたと言い、ルイスは、明かりがなければあそこに見るものはないと相づちを打つ。

母親には、あの最初の朝のうちに電話を返した。母は、夜どうして出なかったのと聞いた。彼は答えるかわりに、百二十二年前のあの最初の晩、地下鉄は何時に閉まったのかと聞いた。母は笑って、そんなこと私にわかるわけないでしょうと言った。

ブルックリン・ブリッジで、彼はいまでは一秒遅れてドアを開ける。ループ線から乗ってきた者たちが、先に降りられるように。