資料番号 № 0010
ヘシュワン月十七日
1. 雨量観測ノート。ニル・ヤロン観測点(ボランティア)、観測者R・シャハル。二〇二六年十月の記録
10月1日。8時、ゼロ。静かな夜。車のボンネットに露は中くらい、シリンダーに痕跡、0.1。これは数えない。ギルが電話で、雨はいつ降るのかときいてきた。気象局は預言者を雇っていない、雇っているのは観測者だ、と言ってやった。八八年は最初の雨が十一月の半ばで、それでもちゃんと種をまいた、とも。
10月3日。ゼロ。季節はずれに乾いて暑い。二時の日陰で三十一度。漏斗のほこりを拭き、落ち葉よけの網を替えた。シリンダーは三十五年もので、下の二本の目盛り、0.2と0.3が消えている。でも目で覚えているから、ミハルには報告しない。先週、ミハルから全員にメールが来た。ボランティア観測網を縮小するという。十一月に残すのは、欠測も中断もない観測点だけだそうだ。私は三十五年、一度も中断していない。最初の雨まで、ひとつの間違いもなく持ちこたえなければならない。
10月4日。ゼロ。物置で最初のノートを見つけた。九一年のものだ。最初の記録は十一月十二日の11.6で、余白に夫の字で「おめでとう」とある。結果が自分しだいにならない趣味を選んだものだと、あのころ夫は笑っていた。
10月12日。ゼロ。朝から東風。窓枠にほこり。門のそばのレモンが葉を筒状に巻き、タプーズは一日じゅう、地面の冷たい車の下で寝ている。
10月15日。ゼロ。ニュースで北部の乾いた秋の話をしていた。キネレト湖が映って、岸辺に去年は見えなかった石が出ていた。ギルが二度電話してきた。二度目には、どの秋が乾いていて、それがどう終わったかを、ノートを繰って読んで聞かせた。九九年、二〇〇八年、二〇一七年。息子は、必要なのは水で、説教なら銀行から十分聞かされていると言った。それも書いておく。
10月18日。ゼロ。今日からシナゴーグで、露と雨を求める祈りが始まった。ノアムがシナゴーグの扉に貼り紙をした。書いておくのは、三十五年間、雨に関わることなら間接的なものでも全部書いてきたからだ。他人の祈りの議事録をつけているのは谷じゅうでおまえだけだ、と夫はよく言っていた。同じ日、ギルが道の向こうの四十ドゥナム全部に、銀行の金で、乾いた土のまま小麦をまいた。祖父もそうしていた、種は乾いた土の中で寝て待つものだ、と言う。種は待つだろう。銀行のほうはどうだか。
10月22日。ゼロ。ギルが昼を食べに来て、黙って食べ、それからポーチでノートパソコンを開いて何か計算していた。窓から見ていると、ふたを閉じ、その上に両手を置いたまま長いあいだ動かなかった。帰ったあと、段にコップの濡れた輪が残っていて、二分で乾いた。台所の時計で計った。
10月25日。ゼロ。夜のうちに冬時間に戻り、一日の雨量の締めがまた八時になった。冬はそれが正しい。いつもの癖で一時間早く起き、一時間ポーチの暗がりに座って、ギルボアの上が白んでいくのを見ていた。この一週間、雲ひとつない。巻雲さえない。
10月27日。ゼロ。明日はヘシュワン月十七日。それがどういう日か、昨日ノアムがグループに書いていた。夫の棚を見ると、注解つきのミシュナがある。古い版で、ページが年月でくっついている。夫がヤッフォの蚤の市で装丁を気に入って買い、一度も開かなかった本だ。ノアムが挙げた箇所を読み、ページの下の注解をさらに二度読んだ。
夕方、夕食は作らなかった。書いておくのは、雨に関わることだからだ。
2. ニル・ヤロンのモシャブのグループチャットより、二〇二六年十月二十六日・二十七日
ノアム・ヤディド、10月26日 20:14みなさん、水曜日はヘシュワン月十七日です。ミシュナでは、十七日になっても雨が降らないとき、望む人は個人として雨乞いの断食を三回始めます。月曜、木曜、月曜です。参加したい方は、最初の断食は十一月二日の月曜です。勧めるわけではありません、お知らせだけです。
[不明の参加者]メコロットの割当量も断食で上がるんですか
ノアム・ヤディド割当量は上がりません。でも、お願いするのは禁じられていません。
ギル・シャハルおれは八月から断食中 ローンっていうんだけど
ルツ・シャハルギル、みんなのグループでそういう書き方はやめなさい。ノアム、ありがとう、書きとめました。
ノアム・ヤディド、10月27日 09:02それから、シランさんの割礼式にシナゴーグの折りたたみ椅子を借りた方、返してください。安息日に座る椅子がありませんでした。
3. 雨量観測ノート、二〇二六年十月二十八日
10月28日。朝八時、4.2。
決まりどおり順に書く。晴れた夜で、星が地面すれすれまで出ていた。三時に外に出ると、オリオンがユーカリの上にあった。風はない。露は普通で、ボンネットにもフロントガラスにも手すりにもついていた。8時に漏斗を外すと、シリンダーに4.2ミリ。二度計り直した。目の高さに持ち、メニスカスの下の縁で読んだ。小道のアスファルトは乾いている。レモンの葉のほこりも湿っていない。指でなぞると、指が灰色になった。ノアムのところには雨量計がないので、柵を越えて、散水用のドラム缶を見に行った。乾いていた。シリンダーの水は澄んでいて、ほこりも羽虫もなく、冷たい。六月の早朝の、キネレト湖の岸辺の匂いがする。
タプーズの皿。ゆうべ洗って拭き、ほこりが入らないよう段の上に伏せておいた。今朝も伏せたまま同じところにあり、下に皿と同じ大きさの濡れたしみがある。タプーズは皿に近づかない。車の屋根の上で寝ていた。そんなところに上がったことは一度もない。
いつもどおり数字を送った。8時30分に計り直すと、シリンダーは空だった。一回目のあとで捨てて拭いておいたのだ。
家族のグループより、10月28日 08:41
ギル・シャハルで
ルツ・シャハル4.2。
ギル・シャハルうちの畑はゼロ 露もおりてない ほんとに?
ルツ・シャハル二回計った。小道は乾いてる。私にもわけがわからない。
ギル・シャハル母さん頼むからそれどこにも送らないで
ルツ・シャハルもう送った。いつも送ってるもの。
4. R・シャハルから気象局ボランティア担当者への手紙、二〇二六年十月二十八日 10:12
ミハルさん、おはようございます。
今日4.2を送りました。そちらでは間違いにしか思えないだろうと、わかっています。電話の手間をおかけしないよう、書いておきます。夜は晴れ、露は普通、小道は乾いていて、近所はどこも何もありませんでした。五軒の庭を回りました。漏斗はきれいで、シリンダーにひびはありません。水道の水を計量カップと比べてみて、ぴったり合いました。雨量計のそばにスプリンクラーはありません。いちばん近い点滴灌漑の管は道の向こうの息子の畑で、二百メートルほど先です。三十五年間数字を送ってきて、自分の目で見ていない数字を送ったことは一度もありません。疑わしいと印をつけてくださってかまいません。わかります。必要ならノートを全部ベイト・ダガンまで持っていきます。オレンジの箱に三十六冊あります。この年月で筆跡は少しも変わっていないと、おわかりになるはずです。変わったのは視力だけで、それには眼鏡があります。
もうひとつ、データとは関係ありませんが、全部書くことにしているので。ゆうべ日没のあと、生まれてはじめて断食を始めました。私は信心のない人間です、ご存じのとおり。なぜそんなことをしたのか、自分でもわかりません。ギルは乾いた土に種をまいて、夜ごと電卓を前に座っています。私は夕方から何も食べず、夜中に雨量計のところへ出て、お願いをしました。声に出して、誰もいない庭で、ばかみたいに。誰にお願いしたのかはわかりません。こんなことを書くのは、雨に関わることは全部ノートに書くことになっていて、あなたがただひとりの読者だからです。
ルツ
返信、10月28日 13:47
ルツさん、こんにちは。詳しく書いてくださってありがとうございます。晴天でまわりも乾いているのに4ミリというのは、もちろん確認対象として印をつけます。観測点のデータはひとまず保留にします。通常の手続きですので、お気になさらないでください。口のせまい容器には強い露がたまることがありますし、結露もあれば、鳥のこともあります。漏斗と設置場所の写真を送っていただけますか。断食のことは何も申しませんが、効くといいですね。こちらもみんな雨を待っています。
ミハル
5. ニル・ヤロンのモシャブのグループチャットより、二〇二六年十月二十八日
ルツ・シャハル、14:05ノアム、ごめんなさい、みんなに向けた質問ではないのですが、個別に送っても返事がないので。違う日に断食した場合、それは数に入りますか。
ノアム・ヤディド、14:31ルツさん、ここでお答えします。ほかの方の役にも立つかもしれないので。ミシュナの個人の断食は月曜、木曜、また月曜で、断食は昼のあいだだけです。夜は食べても飲んでもかまいません。日没から断食するのはヨム・キプールと同じやり方で、必要以上に厳しいうえ、日も違います。今日の日付そのものは断食日ではないので、あなたは別の日にお願いしたことになります。大丈夫です、月曜に決まりどおりにできます。お加減はいかがですか。
ルツ・シャハル、14:40ありがとう。元気です。始めてしまったので、月曜には決まりどおり断食します。
ギル・シャハル、15:12母さん うちの畑は八月みたいにからから 手で掘ったら手のひらぶん下まで粉 頼むから人に笑われることやめて
ノアム・ヤディド、17:20椅子はまだ誰も返していないんですか。
6. 雨量観測ノート、二〇二六年十月二十八日、夕方から
規程では計測は一日一回、朝八時。今日は規程を破り、公式の数字とまぎれないよう、欄外に別に書く。
16:52、日没。空は澄んで、西は黄色く、ギルボアの上はもう青い。雲はひとつもない。空気がひどく乾いていて、三十分おきにクリームを塗っても唇が割れる。シリンダーは空で乾いている。8時30分に自分で拭いた。漏斗を外してのぞくと、漏斗の底に一滴。
18:00、0.6。晴れ。ギルボアの上に一番星。ひさしの下は乾いている。ミハルに頼まれた漏斗の写真を送った。
18:40、ミハルから返信。ノートに残すため書き写す。「ルツさん、ありがとうございます、設置に問題はありません。確認のあいだ観測点は中断扱いとし、十月分のデータはアーカイブに送られません。長くはかかりません」。三十五年、一度も中断しなかった。
19:30、2.1。タプーズが外で私の戸口の前に寝そべって動かない。別の皿に新しい水を入れてやると、においをかいで顔をそむけた。
20:15、ノアムが来た。具合をきいて、夜なら食べていいのだからと、なつめやしの実を持ってきてくれた。あとで食べると答えた。ノアムは手すりの上のシリンダーを見て、何も言わず、聞こえるかときいた。何がと私はきいた。どこかの配管を水が流れている気がする、と言って、なつめやしを段に置いたまま帰っていった。
ギルから電話。朝行くから、夜は外に出るなと言う。八時には出る、それが私の計測だと答えた。
捨てない。ギルには数字がいる。銀行にも数字がいる。ミハルには写真つきの数字がいる。たまるにまかせる。
21:40、漏斗を外してシリンダーに移し、目の高さに上げる。ポーチの灯りが、好きな角度で横から当たって、縁がよく見える。メニスカスの下の縁で9.4。手で温めないよう、シリンダーの上のほうを指二本でつまんで見ていると、縁が上がりはじめた。ゆっくり、ひと目盛り、またひと目盛り、もうひと目盛り。シリンダーからしずくは垂れていない。上は手のひらでふさいでいた。私はひさしの下に立っていた。水かさは私の手の中で上がっていった。
9.9と書いて、シリンダーを段に置いた。上をふさいでいた手のひらが濡れていた。ズボンで拭くと、また濡れてきた。指の腹の皮は、長風呂のあとと同じにしわになっていた。左手で書いている。
22:10、自分からギルに電話して、十ミリ近くあると言った。ギルは長いこと黙っていて、それから、何か食べたかときいた。夜は食べてもいいのよ、ノアムが教えてくれた、と答えた。今から行くと言う。来なくていい、あしたは六時から散布でしょう、私は大丈夫、ほら、ちゃんと書いてるから、と言った。朝ということで話がついた。愛してる、とギルは言った。十二の歳から、そんなことは言われていない。
23:15、台所で、乾いたコップを乾いたビニールのテーブルクロスに伏せた。確かめるためだ。朝、下に何があるか見る。
ゆうべから何も食べていない。ノアムのなつめやしは段に置いてあったが、蟻がたからないよう家に入れた。食べたくはない。八時を待って、見たい。
7. ノアム・ヤディドからルツ・シャハルへの個人メッセージ、二〇二六年十月二十九日 06:30
ルツさん、おはようございます。きのう、ひとつ書きそびれたことがあります。夜、配管の水の音が聞こえて眠れなかったので、書いてしまうことにしました。ゲマラのラビ・エリエゼルによれば、マルヘシュワン月十七日こそ、あの日です。「第二の月の十七日」、大いなる淵の源がことごとく破れ、天の窓が開けた日です。なぜこんなことをお書きするのか、自分でもわかりません。どうか夜、ひとりでシリンダーのところへ出ないでください。
8. ギル・シャハルが家族のグループに送ったメッセージ、二〇二六年十月二十九日 07:58
母さんが八時には電話しないでって 計ってるから